大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)268号 判決

証拠によれば訴外会社は前示の通り買入れ契約をした玉蜀黍千屯を被控訴会社に売る申入をしたが、被控訴会社からは昭和二九年一二月一三日に五百屯買受ける旨の返事があり、ここに訴外会社と被控訴会社間に玉蜀黍五百屯の売買契約ができたが代金は確定しなかつた。その後入荷した分の内から訴外会社は五〇三屯を被控訴会社に引渡したのであつたが当時玉蜀黍の相場は下落していたため訴外会社では従来からの得意先であつた被控訴会社に入手価格よりも高い値段を要求する訳にも行かず寧ろ引取つて貰つたことを喜ぶ程の状況であつたため、訴外会社と被控訴会社間では代金は訴外会社の買取り代金と同額とし、既に被控訴会社から支払はれていた保証金を控除して残金は八、二三七、四八一円となつた。ところが訴外会社では従来被控訴会社にアルコール材料を継続して納入しており被控訴会社から前渡金を受けている関係から、被控訴会社に対し相当の債務を負担していたので昭和三〇年三月被控訴会社は訴外会社に対する前示代金債務につき右の被控訴会社の債権を以て相殺の意思表示をした結果右代金債務は消滅したことが認められる。控訴人はこの相殺を以て権利の濫用でありこれにより控訴人の訴外会社に対する債権が取立不能となり損害を受けたと主張する。しかし被控訴会社がその負担する債務につきその有する債権を以て相殺をすることは法律上当然許された行為である。これを以て権利を濫用するものと認むべき状況は本件では全く存在しない。この相殺権の行使によつて不況にあつた訴外会社の債権者に対する支払が不能になるかも知れないことを被控訴会社で判つていたとしても一向に相殺を妨げる理由にはならない。訴外会社がそういう状況にあるのに相殺権を行使しないとすればその方が寧ろ取締役の責任上問題とせらるべきであろう。されば不法行為を原因とする請求も亦全く理由がない。

(角村 菊池 土肥原)

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